かんせい

0
    ほぼ毎日、酒を飲んでいる。

    店で誰かと馬鹿話しながらガチャガチャと飲むのももちろん楽しいのだが、一番好きなのは家で一人、チョイとしたツマミを前にしてユルリと飲む時間だ。

    だいたい午前0時を回った頃から、氷を入れたグラスにトクトクトクと芋焼酎を注ぎ、2杯ばかしクイクイッと飲ったあたりでようやくエンジンがかかり始める。
    もう一杯、もう一杯、一旦チューハイ的な物を挟みますか、さてそろそろウイスキーにシフトして、いや日本酒がいいかな。
    などとやっているうちに空が白々と明るくなって来るのだが、ここまでただ飲んでいるわけでは無い。
    仕事をしながら飲んでいるのだ。

    俺は零細個人事業者であり、日々雑多なデザイン仕事などをこなしてどうにかこうにか口を糊している。
    人にもよるのだろうが、多くの自由業者にとって作業進捗のピークは深夜〜早朝なのではないだろうか。
    俺もまさにそのタイプで、深夜から早朝にかけての時間帯に最も集中力が上がる。
    その集中力に更にターボをかける為、酒で勢いをつけるのである。

    朝までに仕事先へ送らねばならない浮かれた感じの楽し気なデザイン数案を、自分も酒で浮かれた状態で作成するのだ。
    これはハマると実に効果テキメンで、時に自分でも驚く様な秀逸なデザイン案が次から次へとボンボンと出て来ることがある。
    但しごくごく稀に、ただ酒飲んで浮かれただけでそのまま突っ伏して寝てしまい、朝になって目を覚まし、ふと顔を上げるとパソコンの画面にはPhotoshopの真っ白な新規ファイルが一枚だけ、冷酷に存在しているだけの時などもあり、寝ぼけた頭で一瞬の混乱の後に事態を把握し、誰にも聞かせた事の無いような奇声を発してしまったりする。
    嫌な汗を流しながら半泣き状態で慌てて急造のデザイン案数点を無理矢理でっち上げてメールに添付して先方に一方的に送りつけ、電話線を抜き携帯電話の電源も切り、ほとぼりが冷めるまで井の頭公園に逃亡して数時間、池のほとりでプカプカ泳ぐ鴨など眺めて
    「いいなあお前は」
    小さく呟きつつぼんやりと過ごすという事態もあるっちゃあある。
    そして家に帰って恐る恐るメールチェックなどしてみれば仕事先から「デザイン全てOKです!」の知らせが届いていたりして何だか色々とわからなくなってしまい増々混乱するのである。


    ほっとしつつ日が暮れて夜は更けて、また仕事用のパソコンの前に座り、酒を飲む。
    仕事をしつつなので、肴はコンパクトな「珍味系」をチマチマとつまみつつ、という事になる。
    鰹酒盗、いか塩辛、このわた、筋子など、海の物が中心になるがこういった塩分高めの珍味類と共に辛口の純米酒などをキュッとやるともうとにかく幸せな気分になってテンションもグイグイ上がり、仕事も進むという物。

    そんな、仕事には欠かせないツマミをチョイと自作してみる事にした。

    先月末、近所の商店街をブラブラしていたら、魚屋の冷蔵ケースの中に「ブリの卵」を見つけたので買ってみた。
    こいつを「カラスミ」にして食ってやろうという魂胆だ。

    日本三大珍味の一つでもある「カラスミ」はボラの卵を使った物が一般的だが、鱈や鱸など、様々な魚卵でも作られているそうだ。

    半年程前に興味を持った俺は、冬の到来と共にさっそく天日干し用のネットなどを取り寄せて、安価で入手しやすい助宗鱈の卵を山程買って来てカラスミを作ってみた。
    馴れないながらも塩などの分量をきちんと計り、緊張しながら慎重に作った。
    半月ほどの手間ひまかけてようやく出来上がった「タラのカラスミ」をスライスしてワクワクしながら食ってみたら、まあ不味くは無いのだがそれは「硬くなったタラコ」以外の何物でも無く、半月もの手間をかけて作った割には達成感が薄い代物だった。
    そんなこんなでカラスミ作りにはあっという間に飽きてしまい、天日干しネットも部屋の隅でクシャッとなったまま埃にまみれて邪魔だった。

    すっかりカラスミの事など忘れ去っていたのだが、先日魚屋の冷蔵ケースの前で思った。

    「ブリの卵なら、タラコにはなるまい」

    文章にするとなんだか馬鹿みたいだが、そう思った瞬間、俺の心の中にポッとリベンジの炎がほのかに灯ったのだ。
    乾燥した寒風の元で天日干しにするカラスミである。暖かくなり、黄砂やら花粉やらが舞っている今はやや時期外れな気もするが、とにかくやってみる事にした。
    早速家に戻って下ごしらえだ。


    12_01.jpg


    大雑把に書くとカラスミの製造工程は大きく三つ。「塩漬け」「塩抜き」「天日干し」だ。ちょいと調べれば詳細な自作法がネット上でもたくさん出て来る。
    薄めのオレンジ色をしたブリの卵はとてもキレイで見るからに美味そうだ。血管に針を刺し、中の血液を指で優しく押し出す地道な血抜き作業を繰り返す。
    その後、表面を覆っている何層かの薄膜を取り除き、塩漬け行程に。

    本来であれば魚卵の重量を計り、それに対して適切な割合での塩を用いるのが良いとの事だが、今回そのあたりはまあ感覚でざっくりと。
    とにかく大量の塩でキッチリと覆い、クッキングシートとペーパータオルで包み、外側のペーパーをこまめに換えて効率よく水分を抜きつつ6日。


    12_02.jpg


    水洗いし、日本酒に浸して2日間かけて塩抜きをする。
    こちらも正確に重量計って割合を計算するのが良いらしいが、俺は己の感性のままに。

    12_03.jpg


    その後は毎日、日中はベランダで天日に干し、夜はペーパータオルに包んで冷蔵庫で干す事を繰り返して2週間。じっくりと仕上げた。

    12_04.jpg

    12_05.jpg


    ようやく良さそうな色・硬さに干し上がったカラスミを早速スライスしてみる。
    包丁を入れると、表面はやや硬いが刃が中に入るとスッと切れて、熟成感のあるトロリとしたグラデーションが描かれた断面が現れた。美しく、実に美味そうだったので思わず歓声を上げてしまった。


    12_06.jpg


    かつて工業技術者だった人達が定年退職後、その技術を応用して開業したチーズケーキ屋がある。
    正確な技術で作られたケーキは素晴らしく美味しいと評判になり、いまでも人気店だという。

    きっと、今回の俺のカラスミも同じなのかもしれない。
    自分の専門分野であるデザイン的な感性を応用し、感覚を第一にして全行程をこなして来た結果が、様々な偶然を呼んで今回のカラスミの成功に結びついたのかも知れない。
    仕事の時もそうなのだ。いろいろといじくり回した結果作り上げたデザインよりも、瞬発的に感覚で作ったデザインの方が良い物が出来る事がままある。

    そんな事をしみじみと思いながら、大根を薄切りにし上にカラスミを乗せてちょいとしたツマミを作り、成功した「作品」を、キリッと冷えた純米酒と共に頂いてみる事にした。
    感性に従って作った美味い肴と美味い酒のおかげで、今夜の仕事は良いデザインが作れそうなそんな気がするのだ。


    12_07.jpg



    だけどたべてみたらなまぐさいししょっぱすぎるしほこりくさいしでものすごくまずかったのでもうにどとつくりませんおしまい。



    calendar

    S M T W T F S
          1
    2345678
    9101112131415
    16171819202122
    23242526272829
    30      
    << September 2018 >>

    Dennis Ivanov

    (デニス・イワノフ)

    日本人。
    グラヒックデジャイナー。
    twitter:Dennis Ivanov

    selected entries

    archives

    links

    profile

    search this site.

    others

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM