隣のセプテンバー

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    朝になったので仕事を切り上げ、そろそろ寝ようかと布団に横になりウトウトし始めた所を、とてつもない轟音で叩き起こされた。

    壁の向こう側から、何者かが巨大なハンマーの様な物を叩き付けている。
    ガラガラガラと、コンクリートが崩れ落ちる音がする。
    さらに別の場所からは電動ドリルが金属を貫くヒステリックな高音が。
    何事かと狼狽えたが、そういえば数日前にマンション隣室の内部リフォーム工事のお知らせがポストに入っていたという事を思い出した。

    こりゃたまらんと飛び起きて、ギラギラ照りつける太陽の下を自転車走らせて市民プールへ。
    プールサイドでゴロリと横になりようやく眠りにつく。
    暑さに我慢出来なくなって来たらザブンとプールに転がり込み、チンチンに火照った身体をジュジュウと冷却。
    しばしプカプカと漂った後に水から上がり、再びゴロリと横になる。それを数回繰り返し。
    午後になり家に帰ると隣の工事も一段落しているので、晴れて布団にもぐりこみ、改めてグースカ眠る。
    日が暮れた後にモソモソと起き出し、また一日が始まる。

    ここ最近はこんな感じで、すっかりと夜型生活を送っている。
    時計が午前0時を回った頃から酒を傍に、日が昇るまで仕事を進めるのだ。
    暑さがなかなか引かないここ数日の熱帯夜、少しでも涼しく晩酌を楽しむ為に、ちょいと「コーヒー焼酎」なる物を仕込んでみた。

    作り方は至って簡単。甲類焼酎が入った瓶に適当な量のコーヒー豆をザラザラと流し込み、3〜4日ほど放ったらかしておけば出来上がる。

    24_01.jpg

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    こいつを氷の入ったグラスにトクトクトクと注ぐと、見た目はまるっきりアイスコーヒーだ。
    コクリと一口含んでみれば、時間をかけて抽出された水だし珈琲の様な芳醇な香りと爽やかな苦味が口の中に広がって行く。
    俺はコーヒーはブラック派なのでやらないけど、好みでガムシロップやミルクなど入れても良いのかも知れない。
    むわんと暑い夜、晩酌の最初の1、2杯目にユルリと飲むのに丁度良い塩梅の酒だ。

    24_03.jpg

    コーヒー焼酎などという個性の強い酒ともなると、どんな具合の肴がマッチするのか。
    一説には「焼鳥と相性良し」なんてな情報もあるので、とりあえず鶏でどうにかしてやろうと思った。

    料理は好きじゃないのであまり手間暇かけたくは無い。ゆえに簡単に出来る「塩鶏」を作る事にした。
    プツプツとフォークで刺した鶏胸肉に塩砂糖酒などを揉み込み、ラップに包んで熱湯にドブン放り込み2〜30分放置しておけば一丁あがり。
    出来上がった塩鶏は適当に切ってそのまま食っても充分うまいのだが、それだけではあまりにヘルシーな感じになってしまうので、青ネギとゴマ油などを回しかけて余計なカロリーを加えてやるとよろしい。

    24_04.jpg

    ついでにもう一品、千切りにした茗荷を生ハムで巻き、こちらも小ネギ散らしてエキストラバージンオリーブオイルを垂らしてカロリー添加。
    生ハムは安売りの「切り落とし」で充分。
    茗荷のシャキシャキ感と生ハムのニャキニャキ感が良いコントラストになり酒が進む。
    サッパリしすぎていて、写真のような量であれば15秒ほどで無くなってしまうので呼吸をする程度の感覚で楽しむと良いだろう。
    コーヒー焼酎との相性はどちらもまあ、悪かない。

    24_05.jpg


    そんなこんなで酒も仕事もユルユルと進み、やがて朝が来る。朝になったらまた騒音から逃げてプールで寝よう。
    工事はどうやら3週間ほど続くらしいので、しばらくはこんなペースでプールに避難して昼寝の日々だろう。
    まったくもって迷惑極まりない話ではあるのだが、我家と隣室との間の壁の薄さは以前から気になっていた事なので、今回のリフォーム工事で少しでも改善されてくれればとは思う。

    我家の隣には30代半ばくらいのサラリーマンらしき無愛想な男が住んでおり、以前何度か階段等ですれ違った際に軽くこちらから挨拶などしてはみたのだが、男はいつもヘッドホンをつけて豪快にシャカシャカと音漏れをさせたまま目も合わせず横を素通りするだけだった。
    よって現在に至るまで交流は一切無く、ときどきマンション内ですれ違ってもお互い空気の様に無視するという、いっそ清々しい位の関係を続けている。
    続けているのだが、不満が無い訳でも無い。

    先にも書いた通り我家のマンションの壁は薄く、とりわけ隣家の風呂場と我家のキッチンスペースとの間はどんな構造になっているんだか知らないが「ベニヤ板か?」と思う程に音が筒抜けである。
    時に、追いつめられて数日徹夜で仕事をし、早朝、疲労困憊のままに〆切までの時間を逆算しつつキッチンで眠気覚ましのコーヒーなど淹れていると、すぐ横の壁の向こうから聞こえて来るのである。
    出勤前のシャワーを浴びながら、高らかに歌を歌う男の声が。
    曲はなぜだか毎回アース・ウィンド&ファイヤーの「セプテンバー」だ。

    風呂場で誰が何を歌おうと、そりゃもちろん好きにすれば良いのではあるが、なんかこう、無性に腹が立つのである。
    音程が不安定なのはまだしも、うろ覚えなのであろう英語歌詞の要所要所を「トゥルトゥルトゥルトゥ〜」とごまかしつつも自信満々に歌う所もまた、疲労した神経を妙に逆撫でするのだ。
    トゥルトゥルじゃねえよと。
    毎回歌うなら歌詞覚えろよと。
    イライラしつつ毎回耐えてはいたのだが、ある時、歌声がサビを「BA-DEYA~♪」とファルセットで歌い上げ始めたところで、我慢出来なくなり思わず怒鳴ってしまった。
    しかし何に対して怒るべきかわからないままに勢いで怒鳴ってしまったので、咄嗟に口から出て来たのはなんだかよくわからない方向性の言葉だった。

    「九月!このやろう!」

    怒鳴った途端に恥ずかしくなってしまい激しく後悔したのだが、幸いにもシャワーの水音と歌声にかき消されてこちらの声は聞こえなかったらしく、男はフルコーラスを気持ち良さそうに歌い上げた後に出勤して行った。
    俺はぼんやりとした敗北感を感じつつすごすごと仕事部屋に退散し、コーヒーを飲んで仕事を続けた。

    工事が終わったら、もうあの歌声が聞こえて来る事も無くなるのだろうか。

    そんな事を考えると、少しだけ寂しい。


    なんてな事は全く無いので、どうか分厚いコンクリートを景気良く塗りたくって徹底的に防音して頂きたい。


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    Dennis Ivanov

    (デニス・イワノフ)

    日本人。
    グラヒックデジャイナー。
    twitter:Dennis Ivanov

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