2013夏のワールドツアー 〜タイ・バンコク〜

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    前回からの続き〜


    機内食のグリーンカレーを平らげた直後に、俺はストンと眠りに落ちた。

    通路側の席でグースカ眠っている途中、隣席の白人女性が俺の上を無理矢理跨いで何度か往復した様な記憶があるが問題無い。
    跨がれる際、頭を鷲掴みにされたような記憶もあるがそれも問題無い。
    12時間のフライトはさしたる苦も無く眠って過ごす事が出来た。

    機内アナウンスで目覚めると間もなくバンコク。
    乗り継ぎでスワンナプーム空港を利用した事は何度もあるのだが、空港から出てバンコクの街を訪れるのは今回が初めてだった。
    ロンドンでのそれとは大違いの、実にゆるい感じで入国審査を恙無く済ませ、無事に今回の旅で二度目のタイ入国である。

    空港地下で市街行きの急行列車に乗り込みノンストップ15分ほどでホテル最寄りのパヤータイ駅へ。
    ホテルにチェックインし、バスタブにたっぷりと湯を張り、ザブンと飛び込んだ。久々の湯船に首までつかり、うほおおと声を上げる。
    英国滞在で相当疲れが溜まるだろうと踏んでいたので、バスタブ付きの少しだけ良いホテルを選んでおいて正解だった。
    「良いホテル」と言っても一泊あたり日本円にして三千円ほどの宿である。
    新橋のカプセルホテルと同じ位の値段で、バスタブ付きの広々とした部屋に泊まれるのだから、エジンバラの座敷牢とはえらい違いである。

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    風呂からあがりホカホカしつつ仕事に関する諸連絡などをしていたら、バンコク在住の怪しい日本人H氏から夕食のお誘いを受けたので出かける事にする。
    バンコク市内の人の多さに少々面食らいつつ、そして20〜30分ほど遅刻しつつBTSを乗り継いで待ち合わせの駅へ。
    お薦めだという店に入り、まずは氷入りビールで乾杯。
    ググイとビールを喉に流し込むと、思わず「んめー!」と声が出てしまう。
    ガイヤーン、ソムタム、ヤムウンセン、アヒルのラープなどのタイ料理を一口一口噛み締める毎に、舌を覆っていた何かのコーティングが溶けてジワリジワリと味覚が戻って行く様な、そんな気持ちになった。
    久方ぶりのアジアめし。アジア人にはやはりこれだ。

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    滞在2日目はほぼ丸一日ホテルで仕事。
    「せっかくバンコクに滞在しているのに」
    そんな思いでジリジリとし、ちょっくら外に出て近所をうろついてはみたものの、ビュンビュンと車が走る幹線道路沿いは散歩してもさほど面白い風景ではなく、早々に退散して仕事を進める。

    3日目、久々に丸一日フリーの日。
    何かを取り戻すかの様に、朝っぱらから動く。
    まずはホテル屋上にあるというプールへと向かう。
    エレベーターで登った先にあったプールは実にこぢんまりとしており、そこでは白人のカップルが貸し切り状態でイチャイチャしていた。
    ちょいとお邪魔しますよとイチャイチャ空間にズカズカと侵入し、海パン一丁になってデッキチェアにゴロリと寝そべる。
    「ちょっと、空気読んでよ」
    白人カップルからの強烈な念が飛んで来たが無視しつつ、燦々と照りつける南国の太陽の下、人がたくさん死ぬ陰惨なミステリー小説を読んで過ごす。
    何人目だかの登場人物が死んでふと目を上げると、いつの間にかカップルはいなくなっていた。

    「いまこのプール、俺だけのもの!」

    なんだか貧乏性的に盛り上がり、文庫本を放り投げてプールにザブンと飛び込んだ。
    誰もいないプールで潜水したり逆立ちしたり、飛沫を上げつつ意味も無くグルグルと回ったりなどしてひとしきりはしゃいでいたら、何故だか急に虚しさが襲って来たのでプールから上がり、部屋に引き上げる事にした。

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    部屋でシャワーを浴び、軽くビールをひっかけた後に出かける事に。
    「初めて訪れた街は、とにかく歩いてみる」
    という自分の主義に従って、まずは電車は使わずに歩いてみる事にした。
    歩き出してはみたものの、やはり車がひっきりなしに走る幹線道路沿いは退屈なものである。
    それでも道端の屋台などひやかして延々歩いていたら市場があったので入ってみる。
    どうやらここは衣料品専門の市場らしく、場内には軽く100を越えるであろう店がひしめいていた。
    布地、舞台衣装、祭礼用の礼服、明らかに偽物のブランドTシャツ等々を眺めて歩いた。

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    市場を後にして軽く迷いながら更に歩き続けると、パンティッププラザの建物が見えて来た。
    言わずと知れた「タイの秋葉原」である。
    暑い中を歩き疲れたので涼みがてらちょいと見物してみる事にしたのだが、建物に入るや否や数人のタイ人が小走りでやって来て俺にこう言うのだ。
    「ハロー!スケベー!」
    「ハロー!スケベー!」
    なぜ知っているのだろうかと一瞬狼狽えたのだが、彼らが皆、エロDVDのカタログの様な物を手にしているのを見てすぐに合点がいった。
    「スケベー!アルヨ!タクサンスケベー!」
    「スケベー!スケベー!アナタスケベー!」
    両側からTシャツの袖をなんかもうグイッグイ引っ張られながら、俺は必死に彼らを振りほどいて進んだ。

    なんとか全員を振り切り、エスカレーターに乗って一息ついたところでドッと疲れが出て来た。
    二階に着き、カフェでもあったら休憩しようと思いつつあたりを見回していると後から袖がググイと引っ張られたので振り返る。
    「ハロー!スケベー!」
    気持ちが折れたのでパンティッププラザ見物は諦めて即座に一階の出口に向かう事にした。
    下りエスカレーターを降りると、先程群がって来た連中が再び集まって来た。
    「ハロー!スケベー!」
    「アナタスケベー!」
    「スケベー!スケベー!」
    5年分位の「スケベー」を頂戴してほうほうの体で外に出たら、半袖Tシャツが長袖になっていた。

    スケベーの周辺には巨大なファッションモールなどもあり大勢の客で賑わっていたのだが、どうにも俺の興味の対象では無かった。
    ぶらぶらしていたら駅に辿り着いたので、このエリアからは離れて気のむいた方面に電車で向かう事にした。

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    BTSとMRTを乗り継いで、ファラムポーン駅に着いた。
    特に何か目的があるわけでは無かったが、なんとなく聞き覚えがある駅名だったのと、地図をざっくりとみたらここからチャオプラヤ川まで歩いて行けそうだったからだ。

    いつも通り順調に道に迷いつつ歩き、ワット・ポーで巨大な寝仏などを見物しながらチャオプラヤ川に出た。
    川のほとりのベンチに座ってしばしボンヤリとした後、カオサン通りへと向かう事にした。

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    ホゲホゲと歩き続けて到着した頃にはとっぷりと日も暮れていた。
    道の両側にズラリと屋台が並ぶカオサン通りは多くの外国人観光客で賑わっていた。
    腹が減っていたのでここいらの名物であるというパッタイを食う事にした。

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    丸い鉄板で手際よくチャチャッと作って貰ったパッタイを、道端に立ったまま啜り込む。
    さすがにパッタイは裏切らない。安定の味だ。

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    満たされた腹をさすりつつ通りを冷やかしていたら、遠くの空がピカピカと光っている事に気づいた。
    少しだけ風が出て来て、ほのかに濡れた地面の匂いが漂って来た。
    スコールがやって来る予感がしたので目についたカフェに入った。
    ホットのブラックコーヒーを注文したつもりだったのだが、なぜかドデンと目の前に置かれたのは大量の生クリームがトッピングされたアイスラテであり、自分の語学力の低さを軽く呪ったりしつつ納得行かない気持ちでチビチビ啜っていたらやがて耳をつんざく様な雷鳴と共にバケツをひっくり返した様なドシャ降りがやって来た。

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    通りを逃げ惑う人々をガラス越しに眺めつつ小一時間程ぼんやりしていたら雨が上がったので、そろそろ宿に戻る事にした。

    ファラムポーン駅までの距離は4km少々程だろうか。
    タクシーを捕まえるのが手っ取り早いのだろうが、今日一日歩き回った事でここいらの土地勘はなんとなく身に付いた気がしたので歩いて向かう事にした。
    そして案の定、俺は道に迷った。

    異国の地の、暗く人通りもまばらな夜道の弱々しい街灯の下で、取り出した地図をグルグル回しながら自分もグルグル回るという、道に迷った人間がやる典型的な行動を何度も繰り返しつつ、気がつけば2時間ほども彷徨っていた。

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    やがて、すこし大きなロータリーに到着したので地図で確認する。
    「7月22日ロータリー」という場所のようだ。ここまで来たらファラムポーン駅はもう目と鼻の先。
    ロータリーから伸びる道をまっすぐ行くだけだ。
    駅に向かう道を歩きながら、以前読んだとあるミュージシャンのタイ旅行記の中に「ぐるぐる回る7月22日」という地名が何度か出て来た事を思い出した。
    間違い無くこの「7月22日ロータリー」の事と思われるが、あれは果たして冗談だったのか、あるいは本気で間違えていたのかどちらなのだろうか。
    そんな事を考えながらまっすぐと歩いているうちに、道は駅ではなくて見覚えの無い五叉路に出た。

    おやおやと地図を取り出しグルグル回し、もちろん自分もグルグル回りながら確認してみるとどうやら正反対の方向に来てしまったようだ。
    あわてて引き返し、再び「7月22日ロータリー」へ。そして方向を再確認して駅へ向かう。
    しばらく歩くと、駅ではなくT字路に着いた。引き返して「7月22日ロータリー」へ。
    こんな事を繰り返したのだが、なぜか何度やっても全く駅に辿り着けないのだ。
    ドラえもんに登場したアイテム「すて犬だんご」を食ってしまったが如く、そして某ミュージシャンの旅行記に出て来た記述の如くまさにぐるぐる回ってばかりでロータリーから抜け出せず、歩けば歩く程に目的地から遠ざかるという事態に困惑した。
    しかしタクシーもトゥクトゥクも拾う事はしない。してはいけない。なぜか意地になって何度も何度も7月22日をぐるぐる回り、道を間違えて引き返した。

    何度目のトライだったろうか。少しずつ身体が溶け始めてバター化が始まった頃、ようやく見覚えのある駅の灯りが遠くに見えて来た。
    道端の暗がりの中から数メートルおきに娼婦らしき女性がウッフンと声を掛けて来たが、それに反応する余力もなく疲労でボロボロになった足を引きずりつつ灯りを目指してただただボンヤリと歩いた。

    ようやく辿り着いたファラムポーン駅から地下鉄に乗り込み、シャツもズボンも汗でビッタビタになった身体を過剰な冷房で急速に冷やされてガチガチ言いながらこう思った。
    「俺、バンコクとは相性が悪いかも知れない」
    まだこの街のごくごく一部しか見ていないのだが、どうにもこうにもバンコクという街と自分とがしっくりと馴染まないまま滞在を終える事になってしまった。

    翌朝、タクシーでドンムアン空港に向かい、搭乗待ちの時間を食堂でアヒルご飯など食いながら過ごしつつ思った。
    近いうちに再び訪れて、この街とはもう少し時間をかけて向き合わねばならないなと。

    次の街との相性は果たしてどうだろうか。

    少々の不安を抱えながら、俺は次なる目的地であるラオスのビエンチャンへと向かった。


    〜次回に続く〜


    毎度毎度の遅れに遅れ、「金曜更新」はどこへやら!




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    Dennis Ivanov

    (デニス・イワノフ)

    日本人。
    グラヒックデジャイナー。
    twitter:Dennis Ivanov

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