2013夏のワールドツアー 〜ラオス・ビエンチャン〜

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    前回からの続き〜

    バンコクから格安航空でタイ東北部の街ウドンタニにひょいと飛び、乗り合いタクシーで国境に向かった。
    同乗したのはバンコクから来たというタイ人のおじさん。この人がなんだかやたらにおしゃべり好きでなんかもうえらい勢いで話しかけて来るのだが、タイ語英語ごちゃまぜかつスピーディーなトークスタイルに俺の脳の処理は全く追いつけず、とりあえず適当な間隔でハハハと笑って相槌を入れてはみたものの、トータル20分程の会話の中で俺が聞き取れたのは「ドラえもん」という単語のみ。どんな話を一方的にされているのだか全くわからないけど「なんか、ちょっとめんどくさいなあ」そんな思いが横切った瞬間、おしゃべりの矛先が運転手へと移ったので俺は即座に狸寝入りを決め込み、そのまま目を閉じたままラオスとの国境である友好橋に到着。タクシーを降り、絶妙なポジショニングでさりげなくおしゃべりおじさんとは距離を取って出国手続きを済ませた後にオンボロシャトルバスに乗って橋を渡った。

    橋の上から茶色いメコン川の流れを眺めつつ、ふと「遠くに来たなあ」と思う。
    まあ実際の所、イギリス以外は東南アジアの隣接国を行ったり来たりしているだけなので移動距離的にはたいしたことないのだろうが、それにしてもつい数日前までスコットランドの街中を右往左往していたのが遠い昔の事の様に感じられる。

    そんな事を思っているうちにあっというまに川を渡りバスを降り、ラオスへの入国審査。
    ゲートをくぐり、ついにラオスへ初の一歩を踏み入れた。
    わらわらと集まって来た客引きの中から一番面白い顔をした親父を選び、面白い顔が運転するトゥクトゥクで首都ビエンチャンの市内に向かう。

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    市街地までの道の両側はひたすら広がる田園風景。道路わきでは牛やヤギが草を食んでいる。
    実にのどか。何も無い。
    土埃にゲホゲホいいながら荷台に揺られる事約20分。
    ビエンチャンの中心である市場、タラートサオのバスターミナルに到着。
    トゥクトゥクから降りて大通りに立ってみると、一国の首都とはとても思えない様な呑気な空気が漂っていた。
    スーツケースをゴロゴロと引きながら、予約してある宿を探しつつ歩く。
    看板に書かれたラオス文字がタイ語に似ていたり、人々の話す言葉の響きがタイ語に近かったりして、無知な人間が感じた勝手な印象で言わせてもらえれば「パラレルワールドに来た様な」そんな不思議な感覚を覚えた。

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    辿り着いた宿にチェックインし、さっそくビール。
    ラオスのビールといえば「Beer Lao」だ。
    近所のスーパーでこいつを買い込んで来て、シュポンと栓を開ける。
    ギラギラと照りつける太陽の下、土ぼこりがもうもうと立つ道をトゥクトゥクの荷台に揺られて来たので喉の渇きは最高潮に達していた。
    グラスに注いで一気にグビグビグビと流し込む。

    幸せという物に味がついているとするならば、きっとこんな味なんじゃないだろうか。

    恥ずかし気も無く詩的な表現をしてしまう程に、この時のビールは生涯屈指の美味さだった。

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    ほろ酔い気分になったところで日も暮れてきたので、ラオス飯の実力とやらを計る為にまずは何か食ってやろうと外に出た。
    ふらふらと歩き出すと、宿の近くになにやら美味そうな佇まいの麺食堂があったので早速入ってみる事に。
    可愛らしい店員の女の子にニコリと差し出されたメニューをパラパラめくり「カオビヤック」という汁麺と、豚の唐揚げを注文。ビアラオ飲みつつしばし待つ。

    程なくして運ばれて来たカオビヤックは柔めに茹でられた太い米粉汁麺。優しい味で酒の後のしめにも丁度良い塩梅。
    野菜たっぷりのあっさり出汁スープと共にスルリスルリといくらでも食える。
    一緒に注文した豚の唐揚げはもちろん美味いのだが、カオビヤックのトッピングにも全く同じ物がたっぷりと載せられており、やや唐揚げ過剰な食事になってしまったがまあ問題無い。カロリー的にも俺にとってこんなものは誤差の範囲だ。

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    ラオス初のメシに満足しつつ店を出て、腹ごなしに夜のビエンチャンを散歩する事にした。
    夜9時頃には大半の店が閉まってしまうようなこの街には、たしかに何も無い。
    しかし、その何も無さがなんだか心地よく、のんびりと数日間を過ごすには丁度良さそうだ。

    メコン川沿いに出てみると、実にこぢんまりとした夜市が出ていた。
    特に欲しいものは無いのだが、夜市好きの俺はこの小さな夜市を端から端まで何度も往復してなんとも言えない鄙びた雰囲気を満喫し、宿に戻ってその晩はグースカと眠った。

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    翌日からはとにかくグータラした。
    グータラを堪能するだけの為にバルコニー付きの部屋を取ったので、日がな一日、バルコニーのテーブルでビールを飲みながら通りをボンヤリと眺めて過ごした。
    そんな風にすごしていると時おり、風船売りの親子が自分の姿が見えなくなる程の大変な数の風船に埋もれながら通りを横切って行った。なんだか夢をみているような不思議な光景だった。

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    気が向いたらちょいと街に出てはそこらをブラブラしてはみるのだが、これがまあ本当にこれといって何も無い。
    とりあえず市場を冷やかし、メコン川沿いを散歩しつつボンヤリしていたら、川沿いのちょっと開けたスペースになにやら人だかりがあった。
    近づいてみると、200人はいるだろうかという人達が一斉にエアロビクスの様なものをしていた。
    台の上に乗ったムキムキお兄さんの指導の元で、出力過剰ゆえにバリバリと音割れするスピーカーから大音量で流れる下品で軽快なラオスポップスに合わせて数百人が踊っている様はなかなかに見応えがあり、なんだかこちらも愉快な気持ちになってしばらく見物した。

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    そんな愉快な光景も良いのだが、なにはなくともメシである。
    ラオスに来た目的のひとつ、「ラープ」。
    ミンチ状の肉をハーブ類と和えた食い物で、チェンマイやバンコクでも何度も食べている俺の好物だ。
    ラープは元々ラオスの料理だとも聞いていたので、一度本場の味を体験してみたかったのだ。

    ガイドブックの情報や店の佇まいなどを判断材料にセレクトした一軒の食堂に入った。
    夜7:30。晩メシ時だというのに俺の他に客はいない。
    薄暗い蛍光灯の下でメニューを眺めて迷いつつ、生牛肉のラープとタムマークフン、カオニャオを注文し、ビアラオを飲みながら待つ。

    大瓶を半分程飲んだ所で料理が運ばれて来た。
    待望の、本場の生肉ラープである。
    血の滴るようなミンチ状の牛生肉は新鮮なハーブ類と合わさる事で生臭みなどは一切感じられ無い。
    嬉しいのはセンマイなどの内臓が混ざっている事だ。
    チェンマイで食べたラープに比べると、より生肉の味を活かした味付けのように感じられた。
    ニチャニチャクニュクニュとした食感とともに少々塩気多めの味付けによって実にビールが進み、その絶妙な美味さに思わず半笑いになってしまう。

    そして「タムマークフン」はタイでいうところのソムタムである。
    「ラオスのソムタムは凶悪に辛い」とどこかで聞いた事があったので身構えていたのだが、この店で食べたタムマークフンは丁度良い辛味加減。
    ラープと合わせてビールにもカオニャオにも実に良くマッチした。

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    すっかりこの店が気に入ったので後日再度訪れて牛タン焼き、鶏のラープ、半生牛肉のサラダなどを食べたのだがいずれも美味だった。
    俺が注文するオカズ類は総じて茶色系であり、もちろんこの日のテーブル上も見事な茶系色でコーディネートされた。
    肉類とビールで腹一杯になった後に夜風にあたりながらのメコン川沿いをプラプラし、対岸のタイの灯を眺めつつしばしボンヤリとする。贅沢な時間である。
    Wi-Fiルーターがタイの電波を拾ったのでポケットから取り出したiPod Touchで仕事のメールなど返信する。
    仕事先の大半には何も言わずに出国して来たので俺は東京に居る事になっている。まさかこのメールがラオスのメコン川沿いの夜道から送信されているとは思うまい。

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    このように「何も無い」を満喫していた日々ではあったが、実は何も無いビエンチャンにおいて唯一にして過剰な見所が一箇所だけある。
    郊外に「ブッダパーク」という名の公園があるのだが、ここが実に興味深い場所なのだ。
    ネットでこの場所の写真を観た瞬間「ちょっと、どうかしている」と思った。
    そして「行かねばならない」とも思った。

    珍しく早起きした俺は、この「どうかしている」場所にむけて出発した。
    工事中のデコボコ道が延々と続いているために現在は直通バスが運行されておらず、途中下車した場所からチャーターしたトゥクトゥクの荷台に揺られた。文字通り、本当に大いに「揺られ」た。
    深さ30cmはあろうかという穴ぼこがあちらこちらに空いている路面は雨季のためにドロドロになっており、俺は荷台で何度も派手に宙を舞い、あやうく天井に打ち付けそうになる頭を必死にかばいつつ勢い良く尻から座席に叩き落ちるという動きを繰り返し続けるはめになった。

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    そんな悪夢の様な時間を40分ほど過ごしてようやく到着したブッダパーク。
    道中何度も上下に振られてなんだかグッタリてしまい、半ばどうでも良い気持ちになりかけつつ入場料を払って門をくぐり中に入ってみると、そこにはなんだかクラクラしてしまうような光景が広がっていた。

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    仏教、ヒンドゥー教の様々な神々の像が混在する混沌とした空間。
    そびえ立つ巨大で異様な仏塔は側面の巨大顔面の口が出入口になっている。その周囲には、セロハン細工のような黄色く薄い羽根の蝶々が100匹近くひらひらと幻の様に舞っており、なんだか生きているものが来ては行けない場所に足を踏み入れてしまったような、そんな気持ちにすらなった。

    デコボコ道の疲れも忘れ、様々なわけのわからない像を眺めていたらあっという間に時間が過ぎて行った。

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    異様な毒気に当てられてフワフワした気分のままパークを出ると、待たせていたトゥクトゥクの運転手がニコリと笑いながら手を振っていて、ようやく現実に戻って来たような気がした。
    再び荷台に乗り込み、運転手から貰った焼きバナナを食いながら再びデコボコ道を大きくバウンドしつつ宿に帰った。

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    東京からチェンマイ、エジンバラ、ロンドン、バンコク、そしてラオスのビエンチャン。
    短期間の間に様々な文化圏を行ったり来たりするというのはなかなかに刺激的だが、この日の行程で物理的に脳味噌を揺さぶられた事もありなんだかここでグッタリと疲れが出て来てしまい、宿に戻ってビアラオを一本空けたらベッドに倒れ込んだまま起きあがれなくなってしまった。
    そのまましばしグースカ眠り、目が覚めたら夜の8時を回ったあたり。

    「しまった!」と飛び起きて、急いで外に出る。

    夜の早いこの街では、ボヤボヤしていると食堂が軒並み閉まって食いっぱぐれる恐れがあるのだ。
    白人観光客が集まる様なバーなどは比較的遅くまで開いてはいるのだが、俺はそういった店に一人で出入りするのは苦手なので出来ればローカルな食堂でメシを済ませたい。

    軒並み店が閉まり寂しくなってきた通りに、まだ店先で湯気をもくもくと上げている汁麺屋台が開いていたのでやれ嬉しやと転がり込む。
    どうやらここは牛スジ麺の専門店らしく、身振り手振りを交えて注文してワクワクと待っていると、ゴロゴロと大振りの牛スジ煮込みがドチャリと乗ったいかにも美味そうな汁麺がやって来た、麺をすすりつつスジ肉をガブリ。コリリとほどよい歯ごたえのわずかな芯を残し、スジ肉はトロリと口の中でトロける
    疲れた身体や脳にスカスカと空いた隙間にこのトロトロが流れ込み補充されてみるみる回復して行くようだ。

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    あっという間に汁まで飲み干し、ボコンと膨らんだみっともない腹をさすりながら店を出て今宵もメコン川沿いを散歩する。そして灯りに集まる羽虫の如くフラフラと夜市に引き寄せられて行く。
    タイのナイトバザールなどに比べると、あまり商売っ気の無い地味な佇まいだがこれが実に心地よい。
    特に欲しくもなかったがなんとなくTシャツ屋台に入ってみた。
    一枚を手にとり、暇そうにしていた店番のお姉さんに「いくら?」と聞いた。
    「25,000kip」
    お姉さんは答えた。日本円にして300円少々。

    「少し安くしてくれない?」
    俺がそう聞くと、うーんと考えてお姉さんは言った。
    「じゃあ、18,000kip」
    ずいぶん下がったなと思いつつ、俺は続けた。
    「Tシャツ、4枚買うよ。そしたらもっと安くなる?」
    「いいわよ」
    「4枚でいくら?」

    お姉さんはうーんとアゴに手をあててしばし考えた後、元気良くこう言った。

    「80,000kip!」

    値段上がってるじゃねえかと思いつつ、思わず笑ってしまった。
    「OK!買った!」
    なんだか面白かったので交渉成立させてしまった。

    多く買う事によってなぜか値上がりするという逆ボリュームディスカウントTシャツの代金を払い、俺は店を出た。

    宿に戻ると同時に激しいスコールが降って来た。
    「もうじき旅も終わりだな」
    雨を眺めつつ、ベランダでヤモリに囲まれてビールを飲んだ。

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    〜次回に続く〜


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    Dennis Ivanov

    (デニス・イワノフ)

    日本人。
    グラヒックデジャイナー。
    twitter:Dennis Ivanov

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