2013夏のワールドツアー 〜タイ・ウドンタニ〜

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    前回からの続き〜

    早朝、屋台で汁麺をザザッと啜った後にビエンチャンのバスステーションから国際バスに乗り込んで国境を越え、昼頃にはタイ東北部の街ウドンタニのバスステーションに到着。
    バスの中で隣の席に座ったとても可愛らしいラオス人の女の子に「どこから来たの?ラオス語は喋れる?」とニコニコ話しかけられるも勿論最低限の事柄しか話が通じず、下心は全く無いが語学力の向上を心に誓ったりもした。
    バスを降りた途端、もわんとした熱気と共に突進して来た10数人のタイ人にまたたくまに囲まれ、一斉に四方から服を引っ張られた。
    「タクシー!タクシー!」
    全員が口々に叫んでいる。どうやら客引きの運転手達らしい。それにしても驚異的ながっつき方だ。
    「乗らねえよお!」
    もみくちゃにされつつ日本語で叫び、スーツケースを全力で引っ張りながらバスステーションから逃げ出した。

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    通りに出てふうと一息ついて歩き出すと、大きなショッピングセンターが見えて来た。
    とりあえず涼みがてら建物の中に入り、ベンチに座ってリュックサックから地図を取り出し現在地を確認。
    ざっと見たところ、ここから予約したホテルまでの距離は約2km。炎天下にスーツケースを引いて歩くにはソコソコの距離だ。
    かと言ってタクシーやトゥクトゥクに乗るのも微妙な距離だなあとウンウン考えていたらなんとなく視線を感じたので顔を上げると、ショッピングセンターのフロアのはるか向こうから、タンクトップに半ズボン姿の日本人らしき男性がこちらを見ている。
    全くもって偏見に満ちた見解だとは思うのだが、「東南アジアの旅先で出会ったら気をつけた方が良い人物」の上位に食い込むのが「タンクトップに半ズボン姿の男」だと思う。
    殊に半ズボンの丈が短くなればなるほどに注意喚起度は上がるように思う。
    なぜかと聞かれても「たぶん、そうだから」としか答えられないのだが、旅慣れた数人の方に賛同頂いた見解ではあるので概ね間違ってはいないのだろう。

    ともかく、自分にとっての「注意すべき人物」に当てはまる男がこちらを見つめているので長居は無用だ。早々に歩いて出発する事にした。
    ショッピングセンターから外に出ると、真昼の強烈な日差しが容赦なく照りつけて来た。
    あっというまに汗でズブズブになりつつ、状態の悪いタイの歩道にスーツケースの車輪をガツガツ跳ね返らせながら進んだ。

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    ほぼ直線を歩くだけのルートなのに何故か道に迷ったりしつつ、30分ほど歩いてようやく宿に到着した。
    汗だるまのままフロントのお姉さんの元に突進し、予約してある旨をイギリス帰りの流暢な英語で伝える。
    「私はインターネット。予約する3日前。おまえの名前を聞きたいか」
    あからさまに困惑した表情を浮かべたお姉さんだったが、こちらがグイと差し出したパスポートを何かと照合した結果なんとか意思が伝わったようで、無事にチェックインを済ます事が出来た。

    「キョッ!キョッ!キョッ!」と人を不安にさせる動作音を立てるエレベーターに乗って部屋へと向かう。
    ホテルの建物はかなり古びてはいたが、広くて落ち着いた雰囲気の部屋だった。
    ザザッとシャワーで汗を流し、さっそく街へと出てみる事にした。
    腹も減って来ていたので、本場のイサーン(タイ東北部)料理とやらを食ってやろうという魂胆だ。

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    昼下がりのウドンタニの街は、閑散としていた。

    南国の暑い午後である。人通りがまばらなのは当然ではあるっちゃある。
    商店などもシャッターを閉めたままの店舗が多く、歩いてもこれといって面白い風景では無い。
    何軒かの食堂が集まっている一角に通りかかったので、その中の開いていた店に入る。
    昼メシ時を過ぎた店内に客は誰もおらず、店先ではうっすらと化粧をした大柄のおっさんが何とも言えない微妙な「おばさん感」を醸し出しながら鶏を焼いていた。
    会釈をしつつテーブルに座り、イサーン料理の定番三点セットである「ガイヤーン、ソムタム、カオニャオ」をビールと共に注文。
    午後のだるんとした熱気の中、扇風機がかきまわすヌルリとした温風にあたりつつ氷入りビールを飲んでぼんやりと料理を待つ。
    異国の街の片隅で、今日が何曜日かも気にせずに過ごすこんな時間は実に贅沢である。

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    ほどなくして運ばれて来たのはザックリと切られた焼きたてのガイヤーンまるまる一羽分。
    さっそくムンズと肉を手で掴み、まずはタレを付けずにそのままガブリと食らいつく。
    炭火で香ばしく焼かれた皮のパリパリ感の一瞬後に、熱々の肉汁がシュワリと口の中に広がる。
    身はほどよく締まっており、噛み締める毎に肉本来のうまみがギュギュギュッと染み出して来るようだ。
    すかさず、絶妙な塩梅で唐辛子の効いたソムタムをもち米と共に口に放り込む。
    鶏の旨味塩味が残る口内を青パパイヤの爽やかなシャキシャキ感ともっちりとしたカオニャオのほのかな甘味がサッとリセットしてくれる。
    そこに甘辛いタレをチョイと付けた鶏を再び投入し、更にビールでググイと一気に喉の奥に流し込む。
    トロリとした南国の空気の中、アジアめしと氷入りのビール。
    今回の旅、何度目だかの至福の瞬間である。

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    鶏一羽で概ね腹八分目である。
    最後のビールをグイと飲み干し、「ごっそさん」と、おばさん風おじさんに挨拶して店を出た。

    とりあえず街の中心部に向かって歩き出してはみたものの、まあこれと言って何も無い街だ。
    最初に降り立ったバスターミナル付近をうろうろしていたら鉄道の駅前に出た。
    どのくらいの頻度で列車がやって来るのかは知らないが、駅前の寂れ具合から推して知るべしである。

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    暑さに負けて再びショッピングモールに入る。
    とくに興味を惹かれる物は無かったが、とりあえず涼しいのでノロノロとうろついていると、不意に背後から日本語で話しかけられた。
    「日本人の方ですよね?」
    はっとして振り返ると、数時間前にこのショッピングセンターで俺を見つめていた男性が立っていた。
    タンクトップに、半ズボン。年の頃は30代半ばといったところだろうか。俺よりは少々若そうだ。
    「こちらに来てから長いんですか?」「ここへ来る前はどちらに?」「仕事ですか?観光ですか?」
    男は続けざまに質問してきた。

    せっかくの一人旅である。
    "同じ日本人だから"
    ただそれだけの理由でわざわざ旅先で日本人と交流したくは無いという気持ちがある俺は、申し訳無いなとは思いながらも「ええ、まあ、はあ」と気の無い返事を繰り返しつつ歩き続けた。

    やがて男は横を歩きながらニヤリと笑いつつ言った。
    「このあたり、何も無いでしょう。でも夜になるとむこうの●●と○○の間にある歓楽街に女の子が出て来て賑やかになりますけどね〜」

    ああ、そういう事か。と思った。格好つけるわけじゃないが、俺はこの街にそういう感じは求めていない。
    ただ、イサーン地方のうまいメシが食いたいだけだったので「はあ、そうすか」と食いつきの悪い返事をすると、男はちょっと不満そうな表情になり歩みを止めて言った。
    「よい旅を〜」
    背中越しに男の声を聞きながら「はいどうも〜」と返事をし、俺は振り返らずに歩き続けた。
    なんだか街を散策する気分も萎えてしまったので、ひとまず宿に戻るした。

    ホテルのベッドにゴロリと寝転び居眠りしているうちに気がつけば夜になっていた。
    なんだか身体が重かったが、持ち前の貧乏性も手伝って再び街を見物に出かける事にした。

    夜の市場はそれなりに賑やかだった。
    昼間は閑散としていた鉄道の駅前には何軒もの屋台が出ており、様々な日用雑貨や惣菜などを売っていた。
    屋台を冷やかし、市場を覗く。
    様々な肉類と共に、虫屋台も出ている。
    チェンマイのサンデーマーケットなどに出ている虫屋台には観光地ならではのアトラクション感が2割ほど含まれているような気がするが、ウドンタニの市場の虫屋台は完全に「惣菜屋」だった。店頭の虫の盛られ方もなんていうかこう、「本気」な感じがした。
    その後、若者向け用品店の微妙な品揃えや玩具屋の店頭の謎の生物などを眺めてブラついた後、肉屋台にてここいらの名物だと言う干し肉を数点購入。カオニャオと共にテイクアウト。

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    地方都市の小さな市場である。ほどほどに人が集まってはいるがどことなく寂しさも漂う空気感を楽しんだ後、宿へと戻る事にした。
    まださほど遅い時間では無かったので少々の食い足りなさを感じつつ夜道をトボトボと歩いていたら、不意に昼間のタンクトップ男の言葉「●●と○○の間に女の子が出て来て賑やかになりますけどね〜」が頭の中に甦って来た。下心は全く無いがせっかくだからちょいと歓楽街とやらも冷やかしてみるかと向かってみる事にした。
    「ま、興味は無いけどね。一応せっかく来たんだから、ちょいと雰囲気くらいはね、軽くね。ま、興味は無いけどね」
    自分に言い聞かせるようにブツブツ言いながら、●●と○○の間にあるという歓楽ゾーンを目指して気持ち足早に向かってみた。

    頭の中に浮かんでいるのは、きらびやかなネオンの灯りに照らされたお姉さん達がズンドコズンドコと低音を響かせた下品なポップスに合わせて道の両側で踊っているような、なんならワシャワシャワシャ羽根の生えた扇子など振っているような、そんな賑やかな光景だった。
    しかしまんまと道に迷った俺は、気づけばきらびやかなネオンどころかロクに街灯すらも無いようななんだか真っ暗な農道の真ん中にぽつんと佇んでうろたえていた。
    遠くでは野犬が遠吠えし、すぐ近くの茂みの中からは「ボフー!ボフー!」と正体のわからない小動物のうなり声に威嚇されるというわかりやすい迷い具合である。助平心は出すもんじゃないなと反省しつつ一時間ほど色んな鳴き声に追い立てられつつ宿を探して少しだけ泣きながら彷徨い歩いた。
    途中暗闇の中、サンダル越しに「ほのかに温度を感じるなんだかグニャリとした物」を踏んづけ、思わず「きゃあ!」と自分でも恥ずかしくなる様な甲高い声を上げてしまい、夜道で一人顔を赤らめつつタンクトップの男を呪ったりもした。

    這う這うの体で何とか部屋に戻り、気を取り直して市場で買った干し肉を食う。

    ひとつは豚、ひとつは牛、干し肉の他にはソーセージを一本。
    とりあえず、豚の干し肉にガブリと食らいつく。
    甘い。予想外にとても甘い。
    幼少の頃によく食べた「のしイカ」によく似た甘味の強さだ。

    続けて牛の干し肉をガブリ。
    甘い。やたらめったら甘い。

    期待していた味との違いに戸惑いつつ、口直しとばかり保険として買っておいたソーセージに食らいつく。
    甘い。噛み締める毎に飴の様な糖分がニュチュニュチュと口の中に広がって行く。

    「不味い」

    予想外の甘味の強さに思わず率直な思いを声に出してしまった。
    甘い肉類と共になんとか餅米をすべて押し込み、半ば無理矢理腹を満たすという不本意な夕食だった。

    買い置きのビールも底を尽きたが、町外れの宿から買い出しに出るのも億劫だ。
    明日昼の飛行機でバンコクに向けて移動という事もあり、強制的に本日を終了して力ずくで眠りにつく事にした。

    夢の中で俺は、下心は全く無かったのだが何故か●●と○○の間にあるという魅惑の歓楽ゾーンを探し求めていつまでもいつまでも真っ暗な夜道を彷徨い歩いていた。

    くれぐれもタンクトップに半ズボン姿の男には気をつけた方が良い。

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    〜長くなったので続く。次回、2013夏のワールドツアー最終回、バンコク再び〜


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    Dennis Ivanov

    (デニス・イワノフ)

    日本人。
    グラヒックデジャイナー。
    twitter:Dennis Ivanov

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